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脱ぎ捨てられる昨日

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平面の夜

今暮らしている部屋の近くにかなり大きな工場があって夜も運転しているという話を人にしたら、
「最近夜の工場見学ツアーとかあるのでしょう?」と言われた。
夜景的な意味でだろうか、大工場が連なるのは確かに見ものなのだろう。
新幹線で名古屋を通り過ぎることをわたしは思い浮かべる。

工場は仕事がなければ夜は静かなはずだから、
動いているということはいいことなのだろうと思った。
不景気でレーンを止めなきゃいけなくて
出勤を減らされてしまったという話も田舎で聞いた。
それともそういうのは町工場、中小の話に限るのだろうか。
近くのあの大工場の運転が止まるときは、もっと大きなもの、日本の何かが止まるときなのかもしれないと勝手に思っているけれど
でもそんなことはないのかもしれない。
明日にも止まってしまうのかもしれない。
当たり前に、あっさりと。

以前暮らしていた土地は夜中、外は本が読めるほど明るかった。夜に外に出たり散歩したりすることに違和感はなかった。日付が変わるまでやっている 本屋には老若男女所属不明の人々が集い、夜中の二時に若い女の子がひとりジョギングをしている潔さ、しっかりした格好の酔ってもいない男性が忙しげにタク シーに乗り込む様子、学生たちの呑気に見えるけれど切迫した宴後の笑い声をあげながら道をゆく後ろ姿、夜中に鳴き出した老いた大型犬の散歩をする中年男 性、新宿から流れてきたキャバ嬢が大声で電話をしながら行く帰り道、ひとりゲーセンでクレジットをつぎ込むきれいな女の子、週半ばから闘っているサラリー マンたち、眠らないラーメン屋のタフさ、寝静まった家々、朝方になると早起きの老人たち。誰が何時にどこで何をしていても、誰にとってもそれは当然で、そ のことによって誰もが一致していた。異常は少なく、治安はやけによく、暗がりの怖さはなかった。

今暮らしているところは夜は真っ暗になる。朝方わずかに明るくなってから外に出る。人は誰も歩いていないから大型トラックがスピードをあげてばん ばん走っていて、即死なイメージ。
このあたりでは夜中や朝方に女一人でコンビニに来るなんていうのは普通のことではないようで、時々自分が○×の×のほうに振り分けられているような気分になる。以前は感じられなかった居心地の悪さを、整理されるような感覚を味わいながら、マイペースを装いながら田んぼの横を歩くうちに、マイペースってそもそも装うことでしかないじゃないかと思いながらふと見れば、もう随分稲は育って、夏の夜と朝の間の湿った気配、音もない風にゆっくりと揺れている。

真夜中のレジのお兄さんはソフトだけれど、とても静かだ。ささやくみたいに喋る。コンビニごと静けさの中に沈んでいる。コンビニには勿論わたし以外 誰も入ってこないし誰も出ていかない。眩しい明るさばかりが騒がしい。お釣りをもらって「ありがとうございます」と言うとお兄さんは少し驚いた顔をして笑う。
工場の側を通り過ぎると、ごうん、ごうんとこもった音がしている。大きく呼吸しているような音で、不気味と言えば不気味だけれど、妙に癒される音で、多分 忘れられない音になるのだろう。ライトの光は紫とか赤とかばっかりで、間近にあるのにすごく遠い感じがする。暗がりの怖さは感じない。もしかしたらもう ずっと昔にそういう怖さを忘れてしまったのかもしれない。

ああ、社会科見学とかいきたいな。
工場見学。
食べ物がいい。

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